難しいタイトルになってしまいましたが、今回はランニングにおけるエネルギーをいかに効率よく生み出すか、いかに途中でバテないように走るかというお話をしたいと思います。
このブログを読み終わるころには、なぜランニングの途中でバテてしまうのか、自分に合ったランニングのペースってこのくらいだったんだ、普段どんな食事を心がければいいんだ、ということがわかります。少し難しい言葉が出てきますが、読めば理解できるように書いていきますので、くじけずに読んでくださいね。
AT値とは何か、AeT値とは何か
さて、いきなり難しい言葉が出てきました。まずわかりやすく概念を図で表します。
まず、図の説明からしていきたいと思います。
運動強度が上がると、心拍数が上昇します。例えばバスケットボールのように止まったり動いたりという運動ではなく、一定ペースでのランニングは運動強度が上がらなくても、概ね時間の経過とともに心拍数は上昇します。
心拍数が高くなればなるほど、体のエネルギーを作るエネルギー源が『糖質』優位になります。
ランニングに限る話ではありませんが、普段は『脂質』と『糖質』をバランスよくエネルギー源として活用している人間の体ですが、図に出てくるAT値を超えるとエネルギーを100%糖質で賄う運動強度になります。ランニング中にエネルギー切れを起こして走れなくなったことがあるランナーの方も多いと思いますが、長時間の運動になればなるほど、このAT値を超えないように運動をするということが必要になります。
イメージがわかったところで、言葉の定義について解説したいと思います。
AT(anaerobics Threshold)値とは
AT値とは無酸素性作業(代謝)閾値といいます。
筋肉のエネルギー消費に必要な酸素の供給が追いつかなくなり、血中の乳酸が急激に増加する値です。AT値は、高ければ高いほど、高強度の運動時でも長時間走り続けることができます。
いわゆる有酸素運動ではエネルギーを生み出すときに『酸素』が消費されます。一方、ハードな運動の時には解糖系と言って糖を分解することでエネルギーを生み出します。ここで代謝されたピルビン酸が有酸素運動で使われなかった場合にピルビン酸が乳酸となって血中に分解されます。
AT値はこの血中乳酸値が上がり始めるギリギリ手前の運動強度を指します。
もっとフランクに言うと、糖質100%で体のエネルギーを使い始める値 ですね。別の言い方だと有酸素運動と無酸素運動の境界線ともいえます。
AeT値とは
有酸素性作業閾値といい、有酸素運動から無酸素運動の要素が含まれ始める境界値のことです。平たくいうと、最も効率よくエネルギー代謝ができている値になります。乳酸が発生し始める値として捉えられたりもします。
つまり、このAeT値付近で走ると、1番楽に長時間走り続けることができます。 もちろんAeT値を超えても長時間走り続けられますが、AT値を超えると長時間走り続けることが厳しくなってきます。
また、 AeT値とAT値の幅が広くなればなるほど『有酸素運動』としてエネルギー代謝の効率が良い状態が保てる ということになります。
自分のAT値とAeT値はどのくらい?
これは正確に計測することを基本的にはオススメいたしますが、なかなか計測できる場所なんて身近にありませんし、詳しい人に出会えるなんてことも滅多にありません。特に初心者であればあるほど、難しいことを考えるよりも、まずは『そんなものがあるのか』と理解していただき、興味を持っていただけたら嬉しいです。
AT値やVO2MAXを正確に計測できる施設はこちら
VO2MAXのリンク
それではさっそく計算していきましょう。GPSウォッチなどで自分の安静時心拍がわかる方は、その値を入力していただければOKです。わからない方は安静時心拍を測りましょう。
安静時心拍の測り方
計算をする前に、まずは安静時の心拍数を知る必要があります。安静時心拍とは、寝起きで計測するか、横になったり座ったりして5分以上安静にした状態で心拍数を計測します。もちろん心拍数が計測できる時計などを持っていれば自動で算出されますが、お持ちでない方の場合は、橈骨動脈と呼ばれる親指の付け根に人差し指と中指を当てて15秒ほど触れる脈拍を数えてみてください。数えたら4倍すれば安静時心拍数が計算できます。
安静時心拍がわかったところで、皆さんのAT値とAeT値を計算していきましょう。
下記の式でそれぞれ計算することができます。
- AT値 / AeT値 簡易計算式
- AT値=(220ー年齢ー安静時心拍)×0.8+安静時心拍
AeT値=(220ー年齢ー安静時心拍)×0.6+安静時心拍
※あくまで、目安になる計算上の値であることをご理解ください。
脂質代謝の考え方
脂質代謝とは、体にくっついている脂肪からエネルギーを作り出すことで、ランニングではなるべく脂肪からエネルギーを作り出すことが重要と言われています。
その理由は、人間の体の中に溜め込める糖質(グリコーゲン)は、体脂肪に比べると大幅に少なく、約1600kcal分程度と言われています。一方、体脂肪として取り出せるエネルギー量はその何十倍もの量に当たり、体脂肪は多くのエネルギーを貯蔵するのに適しています。糖質からエネルギーを取り出すのに比べると、脂肪からエネルギーを作り出すまでにはある程度の時間がかかります。
つまり、よほどのスプリント競技でない限り、なるべく体脂肪をエネルギーに変えられる体づくりをしていくことが、ランナーには求められるということです。
実際にAT値、AeT値をどう活かしていくか
実際に自分のAT値とAeT値がわかったところで、具体的な話に落とし込んでいきましょう。
よくフルマラソンでベストタイムを狙いたいならAT値ギリギリのスピードで走り続けるといい、ウルトラマラソンならAeT値ギリギリの値で走り続けるといいなどと言ったりしますが、一概にそうとも言い切れません。
メンタル的な話はあまりしたくはありませんが、私もウルトラマラソンの時はAeT値を狙って走るよりもAT値を超えないようにセーブして走った方がパフォーマンスは高かったですし、AT値は多少超えてもある程度は体が動きます。大切なことは自分のAeT値とAT値を知っておくことと、AT値を超える運動は長くは続けられないということを理解しておくことが大事だと思います。
また、この脂質代謝ゾーンをできるだけ拡張し、脂質ベースで走り続けられる体づくりをしていくという、トレーニングの方に役立てていただけたらと思います。
また、こちらの図に戻るのですが、AeT値を低く押し下げるようなベーストレーニング(LSDトレーニングなど)と、AT値を押し上げるような高強度のトレーニング(インターバルトレーニングなど)を組み合わせることによって、脂質代謝ができる時間帯を長くすることができます。
AT値を押し上げるためには、インターバルトレーニングやレペティショントレーニングがおすすめです。
AeT値を押し下げることとしては、このAeT値を狙ってLSDトレーニングを行うことがおすすめです。
AT値を押し上げるためにはAT値を超える強度で走った後に、AT値を下回るまでレストを入れてから再びAT値を超えるようなインターバル、レペティション走などのトレーニングが必要になります。AT値の押し上げにはAT値を超える運動と下回る運動を繰り返すことが効果的です。
一定のペースで走っていても途中で失速してしまう「AT値を超えた運動が限界を迎える」いわゆる30kmの壁を越えるためには、AT値ギリギリで押すテンポ走も有効です。
実際には正確なAT値とAeT値を測定できる施設で測定してからやるのが本来ですが、まずは始めてみないことには動き出しません。近くに施設がないから始めない人よりも、目安を計算で導いてトレーニングを始める人では天と地ほどの差が出ます。
まずは、計算式で求めたあなたのAT値とAeT値を元に、トレーニングの参考となることを願っています。
脂質代謝と食事について
通常の食生活で糖質ばかり食べている人は糖質からエネルギーを優先的に取り出す回路が育ってしまいます、一方、糖質を控え、タンパク質と脂質をなるべく多く摂る食事をしている方は、何もしていない状態でも脂質からエネルギーを代謝できる体になっていきます。
目指すべきはそのような体ですが、例えば子どもと一緒にご飯を食べたりするご家庭で、自分だけ特別メニューとはいかない方も多いと思います。そういった場合には、なるべくそういった食事を意識することと、間食をしない(血糖値を上げない)ことだけでも体質の変化は訪れます。
このあたりはまた詳しく書いていこうと思います。
心拍数を意識しよう
ここまで読んでくると、自分が走る設定ペースを決めるのに、心拍数を確認できる媒体が必要なことに気がつきますね。もちろんお手持ちのもので構いません。心拍ベルトさえしていればスマホでも見ることができますが、なかなかスマホを手で持ちながら走り続けることは困難なので専用の腕時計をオススメしています。
まとめ
今回はAT値とAeT値について解説してきました。少し内容が難しかったかもしれません。
AT値は無酸素性作業閾値=糖質100%でエネルギーを作り出し、乳酸が血中に分解され始めるタイミングであること、AeT値は脂質代謝が最も効率よく行える値で、長時間楽に走り続けることができます。
まずは自分のAT値とAeT値を計算して知っておくことが大切です。
それらの値を知った上で、トレーニングに活かしていきましょう。
AT値を押し上げるトレーニングはインターバル走やレペティション走など、AT値を超える強度を入れた後にレストでAT値以下に落とすことが重要です。AeT値を押し下げるトレーニングとしてLSDトレーニングを行うことが有効です。
いずれにしても計算だけだと個別の正確な値が分からないので、これをきっかけにチャレンジし、もっと深く知りたくなった際に然るべき施設で計測してみてくださいね。ではまた