ランニングの専門用語っぽい言葉でおそらく最初に出会う言葉が『LSDランニング』だと思います。
LSDランニングを行うことで、心肺機能の向上、長距離を走れる脚づくり、脂肪燃焼効果などさまざまなメリットがあります。初心者でも始めやすいLSDランニング、注意点をよく読んでさっそく始めてみましょう。
LSDランニングとは
LSDランニングのLSDとは、Long Slow Distance(ロング・スロー・ディスタンス、略してLSD)つまり『ゆっくり長く走る』ことです。個人差があるので、以下のように覚えておきましょう。
『会話ができるスピードでゆっくり走る』
LSDランニングは文字どおり『ゆっくり』なので、ランニングを始めたばかりの方でもできるトレーニングです。また、いわゆる脂肪の燃焼ゾーンで走ることになるため、ダイエット効果も期待できます。さらに運動強度が低いため、激しいトレーニングを行った後のリカバリージョグとして、初心者だけではなくアスリートも取り入れるトレーニングになります。
また、ランニングを始めたばかりの方の場合、いきなり距離を伸ばすとケガのリスクもあるため、無理のない範囲で徐々に伸ばしていければOKです。何事も『急激に』やろうとすると続かないので、気楽に取り組んでくださいね。
ただし、会話ができると言っても『ゼァハァさせながらの会話ができる』は全く違うトレーニングになるので、注意点をよく読んでおいてください。
LSDランニングがもたらす効果・メリットについて
LSDランニングのロングに当たる距離(時間)についてですが、明確な指標をあまり見ることはありません。みなさんご存知のランネットというサイトでは60分以上と書かれています。また、別のサイトでは90分以上は行いましょうと記載されている場合もあります。
初心者と上級者ではロングの定義がそれぞれ違うため、明確に書けないことと思いますが、色々考えると初心者は40〜60分を目標に、中級者以上は90分以上を目安に行うとしっくりきます。では、さっそく効果やメリットについて読んでいきましょう。
有酸素能力(持久力・心肺機能)が向上する
まず、LSDランニングの1番の目的に掲げられるのが、有酸素能力、いわゆる持久力や心肺機能の部分である場合が多いです。(ダイエット目的の場合も多いですが、まずはトレーニングとして紹介していきますね)
では、LSDトレーニングがいかにして持久力や心肺機能を向上させているかについて、ひもといていきましょう。
LSDランニングの話の中で、必ずと言っていいほど出てくる話が『毛細血管』についてです。LSDランニングを行うと、体全体の毛細血管が刺激され、酸素の運搬効率が良くなります。また『ミトコンドリア』を増加させると言われています。ミトコンドリアとは、人間の体を形成する約37兆個(2015年までは60兆個と言われていました)の細胞の1つ1つの中に、100〜3000個(細胞によって差があります)あるとされており、人間のエネルギーを生成します。
このミトコンドリアを増加させることができると、運動のエネルギーを作り出すだけでなく、免疫細胞も活発に活動させられると言われています、LSDランニングは免疫学的にも体に良いことがわかりますね。
長距離を走れる脚を作ることができる
LSDランニングは長距離を走るための脚づくりにも有効です。短い距離でスピードを出すトレーニングばかりをしている人は、スピードや瞬発力を出すことができる速筋が発達しています。一方、マラソンなど長距離を走る人は速筋も発達している人もいますが、遅筋と呼ばれるスタミナ、持久力を兼ね備えた遅筋が発達しています。
一般のランナーの中でもスピードが速いと言われる『サブ3(フルマラソンを3時間以内で走る人)』という方でも、多くは遅筋が発達しています。これからランニングを始められる方も、100m走などで結果を出したいという方は少ないと思いますので、基本的には多くのランナーが取り入れるべきトレーニングがLSDランニングです。
ダイエット効果
LSDランニングは、長距離・長時間を走るトレーニングであるため、短い時間を走るトレーニングよりも多くのエネルギーを消費します。
脂肪からエネルギーを作れる体質に
脂質代謝という言葉を聞いたことはありますか?
脂質とは、いわゆる体にくっついている脂肪を意味します。代謝とはエネルギーを作り出すことです。つまり、脂質代謝とは、体にくっついている脂肪をエネルギーに変換することを意味します。LSDランニングを行うことで、この『脂質代謝』の能力が向上します。
細かいメカニズムなどはまた改めて記載したいと思いますが、体がエネルギーを作り出す際に、効率よく脂質代謝を行える運動強度(心拍数でいうことが多い)というものがあります。もちろん人によって異なりますが、このLSDランニングでは、効率よく脂質代謝を促す運動強度でのランニングになります。スピードは出るけど長続きしない・・という速筋優位の方がマラソンなどの長時間運動に耐えられるようにするためには、LSDランニングのような遅筋を活性化させるトレーニングが必要になることはいうまでもありません。
疲労回復効果
LSDランニングには疲労を回復する効果があると言われています。疲労抜きジョグと言われたりすることもありますが、ハードな練習などをした翌日などに、筋肉をほぐすという用途で行う方が多いです。
特に基本はアスファルトなどの硬い路面でトレーニングをしている方の場合は、できるだけ柔らかい路面(土など)で行うことがおすすめです。地面の着地は路面に合わせて行われるため、山など斜面だったり柔らかい土の上などでは路面にに合わせて、さまざまな筋肉が使われることになります。
さらに、体に溜まった疲労物質も筋肉のポンプ機能で拡散していきます。LSDランニングは低負荷でありながら、疲労を回復させる効果が期待できるのです。
LSDランニンングのやり方と注意点
走るペース(運動強度)の設定について
1番重要なのが『走るペース』です。ランニングに慣れている人でも『なぜかスピードが上がってしまう』のがランニングの難しいところ。私も経験がありますが、油断していると知らぬ間にスピードが上がってしまいますので、スピードが上がりすぎないように注意しましょう。
『会話ができるスピードでゆっくり走る』ことがポイントです。
人によって会話ができるスピード、ゆっくりという言葉の定義が変わってきますので、それぞれ自分の感覚で行っていただいて構いませんが、運動強度が高くなりすぎると本来のLSDトレーニングとは違う効果になってしまいますので、目的を持ってLSDランニングを行う際は、スピードには気をつけましょう。想像以上に遅くて大丈夫です。
特によくある間違いとして、息をゼェハァさせながらも「会話ができる」と思い込んでいるのが1番よくあるパターンです。
走る時間(距離)について
走る時間や距離についても、人によって異なります。上の方でも少し触れましたが、15分しか普段走っていない人にとっては、1時間と言われると十分「ロング」ですよね。逆に普段から60分走っている人にとっては60分はいつもと一緒。
初心者は40〜60分を目標に、中級者は90分以上を目安に走りましょう。
ランニングフォームを意識しましょう
LSDランニングにおいて、特に気をつけたいのがランニングフォームです。ランニングフォームはいつも一緒ではなく、スピードに応じて変わります。スピードが遅ければ遅いほど、歩幅は狭く小さな動きになりますし、スピードが速くなればなるほどダイナミックな大きな動きになります。
LSDトレーニングではランニングフォームが縮こまってしまいますので、WS(ウィンドスプリント)と呼ばれる軽めのダッシュを最後に取り入れるといいでしょう。
ピッチが落ちるのには要注意
LSDランニングでもう1つ気をつけたいのが、ピッチの低下です。ここでいうピッチとは『1分あたりに何回地面に着地するか』になりますが、理想は180回/分が1番ケガをしにくいと言われています。
LSDランニングなどでは、理想のピッチである180回/分よりも遅くなってしまうことが多いです。ピッチが遅くなればなるほど、地面との接地時間が長くなり、悪い体の使い方の場合、筋や腱に大きな負担をかけてしまいます。スマホやGPSのメトロノーム機能などを使用するとピッチを刻みやすいのでやってみてください。
LSDランニングにおける心拍数について
初心者の方の場合は、心拍数は難しいことを考えずに、とにかく60分とか90分とか走れることが想像できるくらいゆっくりのペースで走りましょう。
中級者以上の方の場合のLSDランニングにおける心拍数の目安はAeT値を目安に走りましょう。
AeT値って何?という方、中級者以上の自覚があれば読み進めてください。
心肺機能は人によって全然違うのでまずは自分の心肺機能のレベルを知ることが必要です。
心肺機能と一口に言っても、高負荷の運動強度で走り続けるのが得意な人もいれば、低負荷で長く走り続けるのが得意な人といろんな人がいます。例えば5000m走の選手であれば高強度で短いですが、ウルトラマラソンの場合は5000m走に求められる能力とは全く異なる心肺機能が求められます。
このどちらにおいても『心肺機能』は高いに越したことはありませんが、心肺機能のベースを高めるLSDランニングにおいては後者の方の能力を伸ばすことになります。
ざっくりお伝えすると、高い運動負荷を継続して続けられるギリギリの心拍数の値をAT値(5000m走)、低い運動強度で1番効率よく体のエネルギーを使い長時間運動できる運動強度の心拍数をAeT値(ウルトラマラソン)といい、LSDトレーニングではAeT値付近の心拍数で走るのが理想です。
こちらのブログに細かく記載していますが、このAT値を押し上げる(例えば160→170のように)ことができれば、より高負荷の運動に耐えることができる(単純に走力は上がる)ようになり、AeT値を押し下げる(130→120のように)ことができれば、より長時間走り続けられる能力が高まります。この幅を広げるためにインターバルなどの高強度のトレーニング以外にも、LSDのようなトレーニングが選手にも求められることになります。
水分補給や日焼け対策について
LSDランニングは長時間のトレーニングになります。体の水分が減ってしまうとパフォーマンスに大きく影響するだけでなく、リカバリーにも時間がかかってしまったり、熱中症のリスクが上がってしまったりと、百害あって一利なし。
LSDランニングに限らず、ランニングの時は常に意識して欲しい水分補給ですが、その中でもLSDランニングはより水分補給を心がけていただければと思います。
また、ランニング中の敵は水分だけではありません。真夏でなくても紫外線はランナーにとっては大きな敵の1つです。ただでさえ脱水状態になりやすいランニングですが、日焼けを起こすと、皮膚の修復に体の血液が多く取られてしまいます。そのためエネルギーを作り出したり消化したりするための本来必要な臓器から血液を奪うことになってしまいます。
日焼け止めをしっかり塗ることで、熱中症、脱水、疲労感の軽減など、さまざまなリスクを減らすことができますので、LSDランニングの際はできるだけ日焼け止めもしっかり塗って行いましょう。
まとめ
今回はLSDランニングの効果やメリットについて主に解説してきました。LSDランニングは、心肺機能の向上や長距離を走るための脚づくり、脂質代謝の機能向上やダイエット効果、また、疲労回復にもいいとされています。
また、トレーニング方法の注意点としては『会話ができるペース』でゆっくり走ることを心がけることが重要です。ついつい速くなってしまうスピードをしっかりと意識してコントロールしていきましょう。怪我予防のためにもLSDランニング中のピッチはできるだけ180を目標に行い、縮こまってしまうランニングフォームを整えるために、LSDランニングの後には ウィンドスプリントもおすすめです。
日焼け対策や水分補給にも気をつけて、LSDランニングを行っていきましょう。
何事も『無理』すると続きませんので、最初は自分にとっての『ロング』で大丈夫なので、少しずつ距離を伸ばしてくださいね。