今回は『AT値を向上させるトレーニング』ということで、どんなトレーニングを行えばいいか、VDOT表と呼ばれるランニングのタイムの指標によって、どんな設定ペースで行えば良いかについて書いていきます。読み終えるころには自分が行うべきトレーニングがきっと明確になるでしょう。
AT値とは
AT値は無酸素性作業(代謝)閾値といいます。
筋肉のエネルギー消費に必要な酸素の供給が追いつかなくなり、血中の乳酸が急激に増加する値です。かんたんに言うと、走っていて急に足が重たくなって動きにくくなる状態です。AT値は、高ければ高いほど、高強度の運動時でも長時間走り続けることができます。
いわゆる有酸素運動ではエネルギーを生み出すときに『酸素』が消費されます。一方、ハードな運動の時には解糖系と言って糖を分解することでエネルギーを生み出します。ここで代謝されたピルビン酸が有酸素運動で使われなかった場合にピルビン酸が乳酸となって血中に分解されます。
AT値はこの血中乳酸値が上がり始めるギリギリ手前の運動強度を指します。
別の言い方で言うと、糖質100%で体のエネルギーを使い始める値 です。
エネルギー代謝(体を動かすエネルギーを作ること)の面から見ると、このAT値が高ければ高いほど、より脂質(脂肪)で体を動かし続けられることがわかります。ここにAeT値という線が引いてあるのですが、このAeT値の値が低ければ低いほど脂肪を使って運動を続けることができ、この2点を可能な限り広げることが、より脂質代謝ができるということになります。
AeT値のことや計算方法についてはこちら
マラソンももちろんですが、さらに距離の長いウルトラマラソン、トライアスロン(ロング)、トレイルランニング、などのエンデュランススポーツにおいては、AT値だけでなくAeT値を下げるトレーニングもかなり重要な要素です。
心拍数の上昇とAT値のイメージは上の図のような形になりますが、運動強度と血中乳酸濃度から見た乳酸閾値(LT)は以下のような図になります。このAT値とLT値はほぼイコールで考えていただいて問題ありません。
このAT値(LT値)は、計算でも大体の値は出せるのですが、実際に測ってみるとより正確にわかります。大体でももちろん構いませんが、より効率よくやろうと思うと正確に知りたいですよね。
より正確に知るためには、実際に血液を採取して計測するやり方もありますが、走っているときの呼吸を計測するのが一般的です。
換気性作業閾値(VT)といって(覚えなくていいです)、AT値(LT値)に達すると血中の乳酸濃度が上がるのと同様に、走っているときの呼気に含まれる二酸化炭素の量が急激に上昇します。このときの値を計測する方法です。基本的にAT値はVO2MAXなどと合わせて計測してもらうのが一般的なので、そういった施設で計測してもらいましょう。
計測できる施設はこちら
この手の文章は何かと難しく感じてしまうかもしれませんが、何度か読んでいるうちに理解できるようになるので、気が向いた時に読み返してみて下さい。
AT値を向上させるトレーニング3選
ペース走(テンポ走)
ペース走は文字で見れば一定のペースで走ることですが、ここではテンポ走とほぼ同じ意味で書きます。別の言い方では閾値走やLT走などと呼ばれたりもします。1時間MAXで走ったら燃え尽きてしまうくらいのペースで、20〜30分走ります。燃え尽きてしまうくらいと書いてもわかりにくい場合もありますので、1kmを全力で走るときの90%くらいの力で走ります。
インターバル走
インターバル走は聞いたことがありますよね、1kmを全力で走るときの95%くらいの力で走ります。走った後にレスト(休憩)を入れることで、無酸素状態になった体を回復させ、血中に分解された乳酸を再びエネルギーとして使う(乳酸処理)能力が高まります。AT値ももちろんですが、VO2MAXを向上させるトレーニングとしてもよく知られています。
より細かいトレーニング方法はこちら
レペティション走
レペティション走は、全力疾走としっかりとした長めのレストを挟むことにより、最大スピードを高めるトレーニングです。こちらは最大スピードを出し切るため、しっかりとしたレストを取ることがポイントです。
より細かいトレーニング方法はこちら
VDOTとは
VDOT(ブイドット)とは、簡単にいうと『走力』のことです。
『ダニエルズのランニングフォーミュラ』で有名なジャックダニエル氏が、VO2MAX(最大酸素摂取量)を元に、『大体このくらいのペースで走れる人は、理論上このくらいのペースで走れますよ』という指標です。
まずはVDOT表を見てみましょう。右側が切れてしまうときはスライドさせて下さい。
VDOT | 1.5km | 5km | 10km | ハーフ | フル | E | M | T | I | R[400m] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
30 | 8:30 | 30:40 | 1:03:46 | 2:21:04 | 4:49:17 | 5:52 | 6:51 | 6:24 | / | 2:16 |
31 | 8:15 | 29:51 | 1:02:03 | 2:17:21 | 4:41:57 | 7:41 | 6:41 | 6:14 | / | 2:12 |
32 | 8:02 | 29:05 | 1:00:26 | 2:13:49 | 4:34:59 | 7:30 | 6:31 | 6:05 | / | 2:08 |
33 | 7:49 | 28:21 | 58:54 | 2:10:27 | 4:28:22 | 7:20 | 6:21 | 5:56 | / | 2:05 |
34 | 7:37 | 27:39 | 57:26 | 2:07:16 | 4:22:03 | 7:10 | 6:13 | 5:48 | / | 2:02 |
35 | 7:25 | 27:00 | 56:03 | 2:04:13 | 4:16:03 | 7:01 | 6:04 | 5:40 | / | 1:59 |
36 | 7:14 | 26:22 | 54:44 | 2:01:19 | 4:10:19 | 6:52 | 5:56 | 5:33 | 5:07 | 1:55 |
37 | 7:04 | 26:46 | 53:29 | 1:58:34 | 4:04:50 | 6:43 | 5:48 | 5:25 | 5:00 | 1:53 |
38 | 6:54 | 25:12 | 52:17 | 1:55:55 | 3:59:35 | 6:35 | 5:41 | 5:19 | 4:54 | 1:50 |
39 | 6:44 | 24:39 | 51:09 | 1:53:24 | 3:54:34 | 6:27 | 5:33 | 5:12 | 4:48 | 1:48 |
40 | 6:35 | 24:08 | 50:03 | 1:50:59 | 3:49:45 | 6:19 | 5:27 | 5:06 | 4:42 | 1:46 |
41 | 6:27 | 23:38 | 49:01 | 1:48:40 | 3:45:09 | 6:12 | 5:20 | 5:00 | 4:36 | 1:44 |
42 | 6:19 | 23:09 | 48:01 | 1:46:27 | 3:40:43 | 6:05 | 5:14 | 4:54 | 4:31 | 1:42 |
43 | 6:11 | 22:41 | 47:04 | 1:44:20 | 3:36:28 | 5:58 | 5:08 | 4:49 | 4:26 | 1:40 |
44 | 6:03 | 22:15 | 46:09 | 1:42:17 | 3:32:23 | 5:52 | 5:02 | 4:43 | 4:21 | 98秒 |
45 | 5:56 | 21:50 | 45:16 | 1:40:20 | 3:28:26 | 5:46 | 4:56 | 4:38 | 4:16 | 96秒 |
46 | 5:49 | 21:25 | 44:25 | 1:38:27 | 3:24:39 | 5:40 | 4:51 | 4:33 | 4:11 | 94秒 |
47 | 5:42 | 21:02 | 43:36 | 1:36:38 | 3:21:00 | 5:34 | 4:46 | 4:29 | 4:97 | 92秒 |
48 | 5:36 | 20:39 | 42:50 | 1:34:53 | 3:17:29 | 5:28 | 4:41 | 4:24 | 4:03 | 90秒 |
49 | 5:30 | 20:18 | 42:04 | 1:33:12 | 3:14:06 | 5:23 | 4:36 | 4:20 | 3:59 | 89秒 |
50 | 5:24 | 19:57 | 41:12 | 1:31:35 | 3:10:49 | 5:18 | 4:31 | 4:15 | 3:55 | 87秒 |
51 | 5:18 | 19:36 | 40:39 | 1:30:02 | 3:07:39 | 5:13 | 4:27 | 4:11 | 3:51 | 86秒 |
52 | 5:13 | 19:17 | 39:59 | 1:28:31 | 3:04:36 | 5:08 | 4:22 | 4:07 | 3:48 | 85秒 |
53 | 5:07 | 18:58 | 39:20 | 1:27:04 | 3:01:39 | 5:04 | 4:18 | 4:04 | 3:44 | 84秒 |
54 | 5:02 | 18:40 | 38:42 | 1:25:40 | 2:58:47 | 4:59 | 4:14 | 4:00 | 3:41 | 82秒 |
55 | 4:57 | 18:22 | 38:06 | 1:24:18 | 2:56:01 | 4:55 | 4:10 | 3:56 | 3:37 | 81秒 |
56 | 4:53 | 18:05 | 37:31 | 1:23:00 | 2:53:20 | 4:50 | 4:06 | 3:53 | 3:34 | 80秒 |
57 | 4:48 | 17:49 | 36:57 | 1:21:43 | 2:50:45 | 4:46 | 4:03 | 3:50 | 3:31 | 79秒 |
58 | 4:44 | 17:33 | 36:24 | 1:20:30 | 2:48:14 | 4:42 | 3:59 | 3:46 | 3:28 | 77秒 |
59 | 4:39 | 17:17 | 35:52 | 1:19:18 | 2:45:47 | 4:38 | 3:55 | 3:43 | 3:25 | 76秒 |
60 | 4:35 | 17:03 | 35:22 | 1:18:09 | 2:43:25 | 4:35 | 3:52 | 3:40 | 3:23 | 75秒 |
61 | 4:31 | 16:48 | 34:52 | 1:17:02 | 2:41:08 | 4:31 | 3:49 | 3:37 | 3:20 | 74秒 |
62 | 4:27 | 16:34 | 34:23 | 1:15:57 | 2:38:54 | 4:27 | 3:46 | 3:34 | 3:17 | 73秒 |
63 | 4:24 | 16:20 | 33:55 | 1:14:54 | 2:36:44 | 4:24 | 3:43 | 3:32 | 3:15 | 72秒 |
64 | 4:20 | 16:07 | 33:28 | 1:13:53 | 2:34:38 | 4:21 | 3:40 | 3:29 | 3:12 | 71秒 |
65 | 4:16 | 15:54 | 33:01 | 1:12:53 | 2:32:35 | 4:18 | 3:37 | 3:26 | 3:10 | 70秒 |
66 | 4:13 | 15:42 | 32:35 | 1:11:56 | 2:30:36 | 4:14 | 3:34 | 3:24 | 3:08 | 69秒 |
67 | 4:10 | 15:29 | 32:11 | 1:11:00 | 2:28:40 | 4:11 | 3:31 | 3:21 | 3:05 | 68秒 |
68 | 4:06 | 15:18 | 31:46 | 1:10:05 | 2:26:47 | 4:08 | 4:28 | 3:19 | 3:03 | 67秒 |
69 | 4:03 | 15:06 | 31:23 | 1:09:12 | 2:24:57 | 4:05 | 3:26 | 3:16 | 3:01 | 66秒 |
70 | 4:00 | 14:55 | 31:00 | 1:08:21 | 2:23:10 | 4:02 | 3:23 | 3:14 | 2:59 | 65秒 |
71 | 3:57 | 14:44 | 30:38 | 1:07:31 | 2:21:26 | 4:00 | 3:21 | 3:12 | 2:57 | 64秒 |
72 | 3:54 | 14:33 | 30:16 | 1:06:42 | 2:19:44 | 3:57 | 3:19 | 3:10 | 2:55 | 63秒 |
73 | 3:52 | 14:24 | 29:55 | 1:05:54 | 2:18:05 | 3:54 | 3:16 | 3:08 | 2:53 | 62秒 |
74 | 3:49 | 14:13 | 29:34 | 1:05:08 | 2:16:29 | 3:52 | 3:14 | 3:06 | 2:51 | 61秒 |
75 | 3:46 | 14:03 | 29:14 | 1:04:23 | 2:14:5 | 3:49 | 3:12 | 3:04 | 2:49 | 60秒 |
上のVDOT表の中に、自分が走れるペースが恐らくあると思います。
ない場合は、ベーストレーニングとしてジョギングをしっかりと行ないましょう。
VDOT表を3つのトレーニングに当てはめて考える
ペース走の設定タイム
ペース走は本来はマラソンペース(Mの縦列=Mペース)で行うのですが、AT値を上げるためのペース走としてここはTの縦列にあるタイムを参照します。Tペースといいます。
ここでは目標タイムではなく、現在の自分の実力のペースで行うようにして下さい。
インターバル走の設定タイム
インターバル走はインターバルペース(Iの縦列=Iペース)で行ないます。
レストが短すぎると、AT値よりも心拍数が下がらないため、上に記載されているペース走と同じようなトレーニングになってしまい、本来の乳酸処理能力の向上が見込めなくなりますので、レストは長すぎず短すぎず、ちょうどよく行ないましょう。
レペティショントレーニングの設定タイム
レペティショントレーニングはレペティションペース(Rの縦列=Rペース)で行ないます。こちらは100%なので距離によって得手不得手があるかもしれませんが、100%を出し切ることに変わりはありません。タイムを気にして走るよりはとにかく全力を出すことに集中してOKです。
まとめ
AT値を上げるために行うトレーニングとして、効率がいいものを3つ選んでご紹介しました。VDOT表と照らし合わせることで、自分が設定すべきトレーニングのタイムが出てきて便利ですね。
ただしやりすぎには注意して下さい。
これらは運動強度がとても高いため、多くても中2日は空けるようにして、合間でジョギングなどで体をしっかりと回復させて体のケアと集中力を高めて行ないましょう。